今はまだ、折れた翼でも
私は所詮、白岩くんのことはなにも分からないから。

それなら、白岩くんが一緒にいたい人といたほうが、ずっと幸せなんだと思う。



「俺の、大切な人……」



本当は、答えを聞くのが少し怖かったなんていうのは、秘密だ。

けれど、白岩くんの回答は予想外のものだった。



「……今は、いねぇ」



目をそらさない白岩くん。

まっすぐこちらを見つめる瞳で、嘘じゃないって伝わってくる。


その言葉に、私はほっと息をついた。

よかった。白岩くんに大切な人はいない……なんて言ったら失礼かもしれないけれど、なんだかとても安心した。



「てか、なんで、そんなこと聞くんだよ」

「だって、もし白岩くんに恋人とかがいたら、私と一緒に暮らしてるなんて迷惑なんじゃないかなって……」



あのとき合っていた視線は共々今はずれている。けれど、白岩くんに対する心配の気持ちは、本当なんだ。

私は、自分でそれに気づいたから、こうやって言葉に出来ている。



「迷惑じゃねえよ。映茉たち家族には、感謝してる。あのとき助けてくれなかったら、俺は今頃ここにはいないだろうから」



少し悲しそうな表情で、白岩くんは空を見上げる。

どうしてそんな顔をするのか、今何を思っているのか、私にはまだ分からない。

だけど、一緒に暮らしているのだから、その一億分の一くらいは分かってもいいんじゃないかと思う。




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