今はまだ、折れた翼でも
白岩くんは、あのとき、私の手首を優しく掴んでくれた。

ああもう、なんで、こんなときにそんなことを考えてしまうのだろう。

私は、甘えてちゃダメなんだ。知らない人は、怖い。それに、大人の男性に敵うはずなんてない。

だけど、頑張らないといけない。私は、今までの甘えてきた代償を背負っているんだ。


口を開けるけど、声は出なかった。それどころか、立ち上がらされてしまう。頑張らないといけない、のに。



「ね、大人しくしていれば安全なところにしか連れていかねえからな?」



そう言いながら、肩を抱くふりをしてそっと腰を触ってきた。

嫌だ。怖い。怖い……っ!


私は結局何もできずに終わる。こんなことにも抗えず、ただただ従わされて。

でも、これが一つの代償なのだとしたら、まあまあ軽いほうなのかもしれない。



そのときだった。……声が、聞こえたのは。



「ねえ、なにしてんの」



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