今はまだ、折れた翼でも
「少しは落ち着いたか」

「は、はい……。ごめんなさい」



木々の葉っぱが風でこすれてさわさわする音が、私の心を落ち着かせる。

ほんと、さっきの私、別人みたいだったなあと思う。

望くんにも迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない。


だからと言って、さっきのパニック状態の理由を教えろと言われても、答えられない気がする。

だって、私自身、恥ずかしながら分かっていないので……。



「映茉。こんなところ、よく見つけたな」

「あ……。ここは、私の秘密の場所で」



古いベンチに二人で腰掛けながら、会話をする。

私たちが来たのは、森に囲まれた小さな原っぱ。

私がまだ中学一年生だったころの夏、蝶々に夢中になって偶然迷い込んでしまったのがここで。


調べてみたら誰か所有地ってわけでもないみたいで、だから、なにかあるとよくここに来る。

家族に言ってもよかったんだけど、なんだかんだ言わないまま秘密になってしまっていた。

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