浮気されたら、エリート整形外科医に溺愛されました【完】
子どもの頭を撫でながらそう言う彼女の瞳はうるんでいた。 きっと、彼女の気持ちに嘘はない。

でも、今ここで〝私が当時の彼女です〟なんていうこともできない。
そんなこと言ったって、過去は変えられないのだから……。

淳史のことだから、きっとまた同じことを繰り返したのだろう。 だけど、それでも子どもを産むと決断した彼女の気持ちは痛いほどわかる。

私も、同じだったから。


「あの……多分、前の彼女はあなたを恨んだりしてないと思います。 どこかできっと、幸せに暮らしているんじゃないでしょうか……」

「そうですかね……そうだといいです。 あのとき以上に、幸せになっていて欲しいです」


彼女がそう言ったのと同時に、診察室から「小松さーん、中にお入りください」と、看護師さんの呼ぶ声がした。
その声に反応した彼女が立ち上がり、遊んでいた子どもを抱きかかえると、愛加の頭を撫でる。

一緒に遊んでいた愛加は、嬉しそうに彼女の方を見た。


「今日は、この子の検診で。 すみません、初めてお会いした方にあんな重い話……またどこかでお会いできれば」

「いえ……こちらこそ」


笑顔でペコリと頭を下げながら、診察室へと入っていく彼女。
「バイバーイ」と、彼女の子どももこちらに向かって手を振ってくれている。
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