浮気されたら、エリート整形外科医に溺愛されました【完】
ただ、私が実家に帰った理由がまだ問いただされていないところを見ると、桜川医院長も麗華も、上手く話を合わせてくれているのだろう。

そう思うと、少しだけほっとする。


「藤田さーん、診察室へどうそ」


看護師さんに呼ばれスマホをバッグにしまうと、診察室へと入った。

エコー検査のため内診台へ上がると、いつものように診察が始まる。


「赤ちゃん、元気だね。 心臓動いてるのわかるかな?」

「はい。 こんなに小さいのに一生懸命生きているんですね……」

「そうだよ。 中には事情があって産めない人もいるけれど、産む決断をできたのは素晴らしいよ」


先生にそう言われると、なんだか嬉しくなった。

不安な気持ちがないわけではない。 だけど、産まれてくる赤ちゃんに外の世界を見せたい。

こんな母親だけれど、私の周りには麗華もいて、産むことを受け入れてくれた両親もいる。
赤ちゃんにも、そんなたくさんの優しさを知って欲しかった。

父親がいなくても〝生まれてきてよかった〟って思って欲しい。


「まぁこの街にはシングルマザーには優しいから。 積極的に支援も受けて、なにかあれば周りを頼ってね」

「ありがとうございます」


診察を終え会計手続きを済ませると、実家へ向かう。
雨は上がり、空には虹が掛かっていて、赤ちゃんが産まれてくることを歓迎しているかのようだった。
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