浮気されたら、エリート整形外科医に溺愛されました【完】
そんな祖母の優しさが身に染みて、鼻の奥がツンと痛くなる。

でも、祖母は私が小さい頃からそうだった。
話したくないことは、無理に話させようとしない。

〝話したいときに話してくれたらそれでいいよ〟のスタンスである祖母には、反抗期の頃によく助けられたものだ。


「水姫、待たせてすまなかった」


昔のことを懐かしんでいると、再び待合室に現れた桜川先生。

長白衣は脱いでいて、黒のパンツに白いTシャツ姿という、かなりラフな姿になっている。
慌てて来てくれたなのか、髪も少し乱れている様子。

ちょっと失礼かもしれないけれど、案外普通の人だ。


「そんなに待っていないので大丈夫です。 こちらこそ、祖母がお世話になります」

「あぁ、じゃあ行こうか」


「はい、よっこらしょ」と、祖母がゆっくり立ち上がるのを待ってから、3人で一緒に正面玄関へと向かった。

入口近くの駐車スペースに、黒の高級外車が停めてある。
変わっていない、桜川先生の車……。

初めて乗ったときはすごくドキドキしていたのを、鮮明に覚えている。


「2人で後部座席に乗って。 掃除してあるから」

「ありがとうございます。 おばあちゃん、乗らせてもらおうか」

「こんなに立派な車があるんだねぇ。 こんな立派なのは、79年生きてきて初めてだよ」


初めて乗る高級外車に、感激している祖母。
なんか恥ずかしく思えてきたけれど、桜川先生はにっこり笑うと祖母の手を取り、車内へと促してくれた。
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