浮気されたら、エリート整形外科医に溺愛されました【完】
「どうした?」

「桜川先生、さっきの話し……」


きっと、桜川先生が咄嗟に思いついた作り話なんだろう。

だって、桜川先生のような病院内で人気の方が、私みたいな凡人を彼女にしたいだなんて、ありえないもの。


〝そうだなぁ、作り話だよ〟って、笑いながら言って欲しいーーー。


「あぁ……あれ? その話、後でもいい? これから外来だし」

「えっ……、いや、でも!」


そう言うと、桜川先生は早足で外来へと向かって行ってしまった。


……嘘でしょ。 否定されなかった。

しかも〝あとで話す〟って、そんな勿体ぶるような話しなのだろうか。


と、そんなことをいつまでも考えていても仕方がない。
桜川先生が外来に出ている間に、午後以降のスケジュール調整をしなければならない。

独り取り残されてしまった私はどうすることも出来ず、秘書室に戻るしかなかった。


* * *

あれ以降、あんなに鳴っていた淳史からのメッセージはパタリと止んだ。
いくら桜川先生の作り話とはいえ、衝撃だったのだろうな……。

けれど、淳史と復縁するかずっと悩んでいた私にとっては、ちょうどよかったのかもしれない。

あれくらい突き放さないと、私は生温い覚悟のまま、淳史とダラダラ付き合い続けることになっていただろう。
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