再びの異世界、可愛かった皇子様が俺様竜帝陛下になってめちゃくちゃ溺愛してきます。
ローサも王子に剣先を向けたままほっとした顔をした。
例の香のせいで眠っていたはずの彼女が普通に動けているのもきっとメリーの癒しの魔法のお蔭なのだろう。
(メリーは元からぐっすりだったからあの香は効かなかったのかな……?)
とにかく、眼前の危機が去ったことに心から安堵する。
――でも。
ここに“彼”の姿がないことが気になった。
名前を口にしかけて、一度噤み、改めて口を開く。
「皇子は?」
私がそう訊くと、メリーとローサの顔が明らかに強張った。
「それが……」
メリーがそう言いかけたとき、ミシっと頭上で何か嫌な音がした。
皆一斉に天井を見上げて、でも、そこにあるはずの天井が無かった。
――え?
瞬間、何が起こったのかわからなかった。
天井が消えた代わりに満天の星空が見えて、
「ひっ!?」
誰かの小さな悲鳴が聞こえた。
三日月を背に、大きな漆黒の“竜”がこちらを見下ろしていた。
メリーが私の腕の中で小さく震えている。
ローサとカネラ王子がその鋭い眼力に気圧されたように立ち尽くしている。
でも私はその姿を見ても恐ろしいとは思わなかった。
淡い月明かりに照らされたその姿は、むしろ美しいとさえ思えて。
――あぁ、彼がずっと会ってみたかった“竜”なのだと、唐突に理解した。
そして、こちらを見つめる大きな金の瞳を見上げ、私は自然と彼の名を呼んでいた。
「リュー?」