再びの異世界、可愛かった皇子様が俺様竜帝陛下になってめちゃくちゃ溺愛してきます。
第85話
今すぐに立ち上がって逃げ出したいのに、足がガクガクと震えてその場から動けない。
聖女の力で対抗すればいいとわかっているのに、何も出来ない。
その血の眼から、目を逸らすことが出来ない。
『 余の手を取れ、聖女よ 』
魔王の手が、ゆっくりとこちらに伸びてくる。
『 愛が欲しいのなら、余がくれてやろう 』
愛が、欲しい?
……違う。
私は、愛が欲しかったわけじゃない。
私は愛を知らなかったから。
だから欲しいと思ったことはなかった。
リューと、再び会うまでは。
――コハル、愛している。
でもリューが、私を愛してくれた。
ずっと、罪悪感があった。
愛を知らない私が、ちゃんとリューを愛せているのか。
愛してくれるリューに、ちゃんと応えられているのか。
だから、リューを初めて“愛おしい”と思えて、嬉しかった。
私にも誰かを愛せるのだとわかって、心がいっぱいに満たされた。
……そうか、私は。
私はずっと、誰かを愛したかったんだ。