偽る恋のはじめかた
「桐生課長、視力あります?目の前のドン引きしてる私の顔見えてますか?」
「なんか・・・・・・虫ケラを見るような目で俺を見てる」
どうやら、視力はあるようだ。
「桐生課長って、頭は良いけど、恋愛偏差値は中学生並みですね」
「椎名さん・・・・・・、講座始まる?」
ポケットから手帳を出す動作を始めたが、無言で大きく首を振ってそれを阻止した。
「講座するまでもないです。
桐生課長、梨花がしたスキンシップは正常運転です」
「・・・・・・というと?」
「特別な感情がなくても誰にもするってことです」
「・・・・・・そっか、俺はてっきり・・・・・・」
スキンシップされたら自分のことを好きって思い込む男って、本当にいるんだ。
———絶滅危惧種かよ、
俯いた肩を丸くさせて、分かりやすく落ち込んでいる。桐生課長に心底呆れてしまった私はかける言葉が見つからない。
梨花は男をその気にさせる天才なので、彼女の話術とスキンシップが凄技なのは確かだ。桐谷課長は、まんまとハマってしまったということか。
「お待たせ致しました」
なんて声をかけていいか分からなくて困っていたので、ちょうどいいタイミングで店員さんがきてくれた。
上品な店員さんが届けてくれたのは、今日のおすすめランチ。前回に劣らずとても美味しそうで、鼻に香る匂いにお腹が急に空いてくる。