偽る恋のはじめかた
目の前にランチの御膳が運ばれてきても、手をつけずにわかりやすく落ち込んでいる。
「椎名さん、俺のために理想の俺様上司になるための資料作ってくれたでしょ?今持ってきたんだけど・・・・・・」
取り出した書類は、渡してから1週間ほどしか経っていないのに、ボロボロに使い込まれていた。色とりどりの付箋やマーカーで印がついていて、それは受験生の頃の参考書を彷彿とさせた。
「この資料を寝る前に100回読むのを目標にしていて、もう全部暗記は出来た。この資料を頭に入れて参考にしてたから、好きになってもらえたと勘違いしてしまった」
深いため息を吐いた。その表情は真剣そのもので、どこか哀しげな目をしていた。
「・・・・・・」
「椎名さん?」
「・・・・・・」
「椎名さん?大丈夫?」
「・・・・・・ふっ、あははははは」
桐生課長があまりにも真剣にいうので、ずっと我慢していたものが弾け飛ぶ音がした。気付くと笑ってしまった。
ダメだ、桐生課長の真面目さが規格外すぎて笑わずにはいられなかった。