偽る恋のはじめかた
大口を開けて笑う私の姿を見て、なんで私が笑っているのか分からないと言った様子で呆然としている。
「なんで笑ってるの?」と何度も聞かれたけど、教えてなんてやらなかった。なんだか、桐生課長の真面目な馬鹿さがずるくて、いじわるをしたくなったんだ。
純粋で、真面目で、梨花のことを一途に思い続ける。自分の性格を変えようとしてまで、好きになって欲しいと努力する。その努力は、資料を寝る前に100回読んだり規格外。
真面目バカすぎて、桐生課長には呆れてしまう。
だけど、こんなにも努力して愛されている梨花が羨ましいと思ってしまうんだ。
「なんで笑ってたの?」
「教えません」
「・・・・・・気になるな」
ランチを食べながら、何度も聞かれたけど教えなかった。いくら聞いても教えない私に、拗ねた顔で不満をもらしていた。
笑っちゃうほど残念上司の桐生課長のことは、私の中だけに留めておきたい。本人にさえ、教えたくなかった。
あっという間に終わってしまった作戦会議という名のランチは、指導をしたわけではなく、桐生課長の真面目さに笑っただけのような気がする。
同じ空間に入れることに、喜びという感情が心をあたためてくれた。お腹も心も満腹だ。
そして、私の中の感情にせっかく蓋をしたのに、また溢れ出そうになるのだった。