偽る恋のはじめかた
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「椎名さんは、食べ物はなにが好きなの?」
「パスタとか甘いもの・・・・・・ですかね」
「今度はイタリアンにしようか」
———今度。
あたりまえのように次があるような会話が嬉しくて、心があたたかくなる
会計を終えた私たちは、お店の外で足を止めて話していた。いつもなら一言、二言話した後に、他の社員にバレないようにと別々に会社に戻る。
一向に歩き出そうとしない桐生課長を不思議に思いながら、様子を伺っていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらくの無言が続く。
歩き出さない意図がわからなくて、痺れを切らした私は口を開いた。
「桐生課長?先に会社に戻らないんですか?」
「いや、その・・・・・・」
桐生課長は言葉を詰まらせて、困ったように情けない顔をするので、尚更わからなかった。