偽る恋のはじめかた







「一緒に・・・・・・戻らない?」


「えっ?」


予想もしていなかった言葉に、私は驚きを隠せなかった。その言葉の意味もわからなかった。


「会社の人にバレたら・・・・・・面倒ですよ?」

「・・・・・・だよね」

「バレないように、別々に会社に戻ろうって言い出したのは桐生課長ですよね?」

「なんだか、椎名さんともう少し話したいなぁ、って思っちゃって」




・・・・・・それって、

その言葉の意味を勝手に自分の都合の良い解釈をして、ドキドキと心臓の鼓動が早くなる。


照れた笑いを浮かべた彼を見て、その言葉に淡い期待をしてしまう。



———それって、どういう意味ですか?

喉まで出かかった質問を投げかける勇気はなかった。期待したところで、桐生課長の好きな人は、私ではないことは確かなのだ。



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