偽る恋のはじめかた
桐生課長の好きな人は、自分の親友。
改めてその事実に胸の奥がチクっと痛む。
『一緒に・・・・・・戻らない?』
この提案を拒否するなんて、今の私にはできなかった。
なぜなら、もう少し一緒にいられると思うと
自然と心が弾んでしまっているから。
心は正直だなぁ、
喜んだところで、何の意味もないのに。
忙しそうに電話で話しながら歩くサラリーマンや、笑顔を浮かべて話しながら歩くOL。そんなオフィス街を肩を並べてゆっくりと歩く。
桐生課長は私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれているのがわかった。恋愛偏差値は低いのに、こういう優しさはスムーズに出来てしまうから、桐生課長のことが、時々分からなくなる。
「会社の人に見られたら、どうします?」
「・・・・・・そこで、会った、とか?」
「それにしましょう」
「誰かに見られて疑われてしまったら、ごめん。
その時は、絶対に椎名さんには迷惑掛からないようにするから」
「・・・・・・迷惑じゃないですよ」
「・・・・・・えっ?」
「なーんて。疑われたら迷惑ですよ!
桐生課長の好きな人は梨花なんですから」
「あぁ、そうだな」
「桐生課長、前よりも目を見て話せるようになりましたね」
「おぉ!わかってくれた?」
「・・・・・・はい」
その視線にドキドキしてしまうことがある。
・・・・・とは、言えないけど。