偽る恋のはじめかた



褒められて嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべて話を続ける。



「イメージトレーニングの成果だな」

「イメージトレーニング?」

「雨宮(梨花)の写真をでっかくプリントアウトして、その写真を壁に貼って、目を見つめる練習をしたんだ」

「・・・・・・きもっ」

「ちなみに椎名さんとのツーショットの写真だから、必然的に椎名さんの写真も飾られてる」

「・・・・・・ガチでキモいのでやめてください。
今日帰ったらすぐに剥がして捨ててください。じゃないと、セクハラで訴えます」

「・・・・・・はい」


消え入りそうな声でつぶやいた。
怒られて落ち込む桐生課長の少し後ろを歩いて、バレないように、笑みを浮かべた。


桐生課長が、知らないことが2つある。

1つ目は全く怒っていないこと。
怒ったフリをしたけど、本当はそこまで怒りが込み上げてこなかった。
恋は盲目とよくいうけれど本当みたいだ。

そんなことは知らずに、本気で怒られたと思って、しょんぼりしてるのが背中から伝わってくる。


2つ目はいつもより歩幅を小さくして歩いていること。

1分、1秒でもこうして並んで歩いていたくて、いつもより歩幅を小さくして歩いた。



このくらいの我儘なら、
許してもらえるかな・・・・・・。

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