偽る恋のはじめかた




まだどこかで、ドッキリじゃないかと疑ってしまう。黒須君とデスクが隣になったのは、今年度の4月。よく話すようになったのはデスクが隣になってからだから、そんなに関わりなかったような・・・・・・。


「話すようになったの最近だよね?」


「デスク隣になる前から、気になってましたよ。わざわざ椎名さんに質問しに行ったり、ちょっかい出してたんすけど。鈍すぎだろ・・・・・・」

拗ねた表情をしていうものだから、私の中の母性本能が胸を疼かせた。後一歩できゅん、となるところだった。


「・・・・・・知らなかった。・・・・・・黒須君、あのね」


「ごめん」喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。少しも悩もうとせずに、黒須君の告白を断ろうとしていた。

黒須君は気が効くしモテる。年下だけど、2個しか離れてないから話も合うだろう。



黒須君と付き合えばきっと楽しい、そんなことは分かっているのに、私はそれができない。



   ———心の中に別な人がいるからだ。


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