偽る恋のはじめかた





「ありがとうございます。受け流さないで、ちゃんと聞いてくれて」

「・・・・・・黒須君、」


黒須君のまっすぐな瞳に、私もきちんと答えたいと思った。

自分の気持ちを言葉にしようと、深く息を吸い込んだ。吸い込んだ空気と共に言葉を発しようとすると、黒須君の言葉の方が先に放たれた。




「あっ、時間だ。定時なんで帰りますね」


そう言い残すと告白の余韻を残すことなく、本当にすぐに目の前から消えた。

私は今、自分の気持ちを黒須君に伝える寸前だった。私が言葉を発する1秒の差で、彼は帰ったのだ。



「・・・・・・」



私はポツリとその場に取り残された。会社の通路で話していたので、定時で仕事を終えた人たちが次々と私のそばを通り過ぎる。


数年ぶりに男性に告白された嬉しさの余韻に浸る暇もなく、突如訪れた虚無の感情。



「ガチで帰ってるじゃん・・・・・・」


告白されたはずのに、男に捨てられたような、虚しい気持ちになった。

告白されて、捨てられた。
私の感情は入り乱れて迷子である。

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