偽る恋のはじめかた
「・・・・・・なにもなかったよ、タクシーでアパートの前まで送ってもらって別れたし・・・・・・」
「部屋についてきたり、手を出されたりしなかった?」
「・・・・・・う、うん」
手は出されなかったのは真実だけど、桐生課長は部屋にきたので、嘘をついたことになる。
部屋に来たことは、言わない方がいいと思って言えなかった。
親友の梨花に嘘をついた罪悪感から、ちくっと胸が痛む。
「そっかあ、送り狼にならないなら、紳士ってことで桐生課長のポイント高いかな」
「う、うん。桐生課長は紳士だと思う。
・・・・・・お、応援するね」
「皐月〜、ありがとう」
柔らかい笑顔を浮かべる梨花の表情に、胸の奥がずきっと痛む。
「応援するね」なんて、口先だけの綺麗ごと。
親友の梨花が嬉しそうに桐生課長の話をするのを心が拒否していた。
自分の黒い部分を再確認して、そんな自分に嫌悪感を抱く。
自分の嫌な部分だけ露わとなって、
わたしは弱い人間だと改めて思い知らされた。