偽る恋のはじめかた
梨花は、私が桐生課長を気になっていることを知らない。
桐生課長が梨花を好きなことも知らない。
後者を伝えた方がいいと、分かりきっている。
明白なことなのに、それができなくて胸がぎゅっと締め付けられて苦しくなる。
桐生課長は梨花を好き、と伝えれば、この物語はハッピーエンドだ。
わかってる、わかっているのに・・・・・・。
「桐生課長は梨花のことが好きなんだよ」
喉まで出かかった言葉が出てこない。
伝えなきゃと、頭では分かっているのに、
心と感情がそれを邪魔する。
親友に打ち明ける勇気も、
親友を失う覚悟もなくて、
伝えることができなかった。
桐生課長の恋を一番近くで応援していたはずなのに、今は私が一番邪魔をしている。
私ってこんなに性格悪かったんだ。
こんな自分が心底嫌になる。