偽る恋のはじめかた
「皐月に告白した黒須君の本心が聞きたいな〜。あっ、今からここに呼んじゃう?」
「いや、やめようよ。
・・・・・・連絡先知らないし」
「そっかぁ。連絡先知らないなら仕方ないね、残念」
梨花はたまにどんでもないことを言い出す。
まさに今、だ。
黒須君を呼び出すなんて、なにを話せばいいのか分からない。連絡先を知らなくてよかった、と心の底から思った。小さな溜息が自然と漏れる。
「じゃあ、桐生課長呼んじゃう?」
「えっ・・・・・・、連絡先知ってる、の?」
桐生課長を呼ばれたら、正直気まずい。
2人が仲良くなる様子を目の前で見ているだけなんて、心中穏やかにいられそうにない。
私は「連絡先知りませんように」と心の中で念じた。梨花の返答をドキドキしながら見守る。
「・・・・・・あぁ、そっか、残念。
桐生課長の連絡先知らないや」
梨花が桐生課長の連絡先を知らなくて、ホッとすると同時に、胸の奥底では喜んでしまった。
私は桐生課長の連絡先を知っている。その事実に、少しだけ優越感を感じてしまったのだ。
「皐月、桐生課長の連絡先知ってる?」
「・・・・・・」
なんて答えよう・・・・・・。
梨花のねだるような視線が突き刺さって痛い。
私は、桐生課長の連絡先を知っている。
恋愛相談などでたまに連絡を取ったりもした。
ドクドクと嫌な音を立てて心臓の鼓動がうるさくなる。
連絡先を知ってることを、正直に言おうとしては決心がつかず踏みとどまってしまう。