偽る恋のはじめかた
「梨花、ごめん。今日は帰るね」
「えっ?まだ料理残ってるよ?」
「ごめん、これで支払いお願いしていい?」
激しい罪悪感から、これ以上この場にいることができなかった。
いきなり帰ると私が言い出したので、梨花は戸惑いの表情を浮かべて私に視線を向けている。
その視線に気付いているのに、気付かないフリをした。1万円札を財布から抜き取るとテーブルに乱雑に置いた。料理の合計金額よりも多いお金を残したのは、せめてもの罪滅ぼしだ。
ご飯を1回奢ったくらいで、許されることではないことはわかってる。
でも、少しでも罪滅ぼしをしないと、
罪悪感と後悔で私の心が押し潰されてしまうから。
これは自己防衛だった。
私の胸の内を知らない梨花は、困惑した表情で目が不安そうに揺らいでいた。
その表情にさらに罪悪感が増して、自分の不甲斐なさを痛いほど感じた。
「ほんとうに・・・・・・ごめん」
そう呟いて、なにか言いたげな彼女を残して店を後にした。