偽る恋のはじめかた
突然桐生課長に誘われた私は戸惑う気持ちと、浮き立つ気持ちが交差する。
「なに着て行こう」
いつもと似たような無難な格好は避けたい。でも、ワンピースやスカートなんて着たら気合い入ってると思われそうだし・・・・・・。
クローゼットの中から引っ張り出しては、決められずにフローリングの上に投げ出される洋服たち。
「気合い入ってると思われたくないけど、
この際、ワンピースにしようかな」
迷っても考えても決まらないコーディネート。
全身鏡で一人ファンションショーをしていると、鏡に映る自分の顔を見て、いつもの2割程度の化粧だったと思い出した。
・・・・・・こんな薄い顔では、会いたくないな。
あたりまえのように、化粧をもう一度やり直す。
さっきまでは買い物だから、いつもの2割程度でいいやと思っていたのに、桐生課長と会うとなったら、いつも以上に気合いが入っている。
鏡の中に映る自分は口角が上がりっぱなしだった。仕事の時につけている朱色のマットリップを持った手が止まる。
———休みの日に2人で会うって、デートだよね。
いつもつけていた朱色のリップを化粧ポーチに戻した。その代わりに、艶が出るコーラルピンクのリップを手に取る。
自然と口角が上がったままの唇にコーラルピンクのルージュを塗る。淡くピンクに染まった唇はぷっくりとツヤも出た。
いつか訪れるデートの時に使おうと買ったまま、開けられずに眠っていたルージュだった。