偽る恋のはじめかた
鏡に映る私は、満足そうに顔を綻ばせていた。
そんな自分の顔を見て、ハッと我に返る。
休みの日に桐生課長と会えることを喜んでいる場合じゃない・・・・・・。
私は嘘をついて、偽る罪を犯した。今もその後悔が心に重くのしかかったままだ。
私には、桐生課長と会えることを喜ぶ権利なんてない。
自分は桐生課長と梨花の恋を応援する立場で、気にしないといけないことは山程あったのに、なに浮かれて準備してるんだろう。
自分の行動に猛烈に反省する。
「今日は浮かれて会うんじゃなくて、
・・・・・・桐生課長に、伝えよう」
この時、私が彼に伝えようと思ったことは、
「梨花が桐生課長を気になっている」
「2人は両思い」ということ。
心に重くのしかかった偽りの罪と後悔を、取り除きたい。
桐生課長と梨花は両思いなのだ。
この物語に私の出番はないと思った。
脇役の私の気持ちなんて———・・・・・・、
心の奥底に閉まって一生開かないように蓋をしよう。
私は、桐生課長の恋を応援する———。
鏡に映る自分の唇に視線を向けると、ほんのりピンク色に染まったコーラルピンクのルージュをティッシュで乱雑に擦りとった。
そして、仕事の時につけている見慣れた朱色のリップを上から重ねる。
これはデートじゃない。
浮かれている自分に、強く言い聞かせた。