偽る恋のはじめかた
「お待たせ致しました」
「わー、おいしそう!」
注文して、しばらく経つと嗅覚を刺激する匂いと共に運ばれてきた。
メニュー表の写真で見るのと衰えなく、それ以上にとても美味しそうだ。
「すみませんが、小皿2つお願いできますか?」
桐生課長は、店員さんにも優しい口調でお願いする。こういう時に店員さんに横暴になる男は嫌いだった。
桐生課長はメニューを注文する時も「お願いします」と、ずっと敬語で丁寧に話していて、好感しか持てなかった。
小皿が運ばれてくると、あたりまえのように桐生課長が取り分けてくれた。
そんな様子を見ながら、桐生課長と付き合ったら、私よりも家事とか料理してくれそうだなぁ。
なんて、妄想を頭の中で広げていた。
「どうぞ」
パスタが取り分けられた小皿を渡された。
心なしか、私に渡された方が多いように感じる。
「椎名さん、よく食べるから。残したら俺食べるよ」
小皿をじっと見つめていたのがバレたのか、私の心を読まれたようだ。