偽る恋のはじめかた




「お待たせ致しました」


「わー、おいしそう!」


注文して、しばらく経つと嗅覚を刺激する匂いと共に運ばれてきた。
メニュー表の写真で見るのと衰えなく、それ以上にとても美味しそうだ。


「すみませんが、小皿2つお願いできますか?」


桐生課長は、店員さんにも優しい口調でお願いする。こういう時に店員さんに横暴になる男は嫌いだった。

桐生課長はメニューを注文する時も「お願いします」と、ずっと敬語で丁寧に話していて、好感しか持てなかった。



小皿が運ばれてくると、あたりまえのように桐生課長が取り分けてくれた。

そんな様子を見ながら、桐生課長と付き合ったら、私よりも家事とか料理してくれそうだなぁ。

なんて、妄想を頭の中で広げていた。



「どうぞ」

パスタが取り分けられた小皿を渡された。
心なしか、私に渡された方が多いように感じる。


「椎名さん、よく食べるから。残したら俺食べるよ」


小皿をじっと見つめていたのがバレたのか、私の心を読まれたようだ。



< 144 / 261 >

この作品をシェア

pagetop