偽る恋のはじめかた
「椎名さん?」
黙り込んでしまった私を心配するように、優しい目で見つめられた。
その声に黙り込んでいたことに気付いて、急いで作り笑いを浮かべる。
「・・・・・・ほんとう、美味しいですよね」
「今度は、トマト系も食べてみたいなぁ。
次に来た時はトマト系を注文してみようよ」
そう言って笑う桐生課長の言葉の真意は分からない。きっとその言葉に大きな意味はないし、駆け引きもないだろう。
彼はただ、感じたことを言っただけ。
それをわかった上でも、嬉しくて胸の奥があたたかくなる。