偽る恋のはじめかた
「そういうこと簡単に言わない方がいいですよ」
「どうして?」
「・・・・・・私、勘違いしちゃうじゃないですか」
じっと桐生課長の目を見つめて伝えた。
平然を装っていたけど、内心は心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていた。
ありったけの勇気を振り絞って出した言葉は、今の私にできる精一杯のアピールだった。
伝わったかな、伝われ、伝われ。
伝わって欲しいという気持ちと同時に
返事が怖くてたまらなかった。
「勘違い・・・・・・?」
「・・・・・・」
返事の代わりにゆっくり頷いた。
「いいよ?勘違いじゃないから」
「それって・・・・・・」
「そのままの意味だけど?
椎名さんといると時間過ぎるのが早いって。
え?なんか日本語変だった?」
「・・・・・・」
予想はしていたけど、恋愛偏差値が中学生で止まった桐生課長には、上級者向けすぎた。
困惑したような表情をしていて、私の伝えた言葉の意図は全く伝わっていないようだ。
あぁ、桐生課長はこういう人だった。
彼は思ったことをそのまま口に出しただけのようだ。そこに男女の駆け引きや、作戦などは微塵もない。
私が勝手に期待してしまっただけ。
わかっていたことだったけど、勇気を振り絞って伝えた言葉が、全く伝わっていないことにショックを受けてしまう。