偽る恋のはじめかた


涙が溢れてきてしまいそうな私を、
桐生課長は優しい眼差しで見つめる。



そんな優しい顔で見つめないでよ、
私のことなんて好きでもなんでもないくせに。


そんな優しい顔や、優しい声は好きな子だけに向けてよ。


ドキドキと高鳴る胸の鼓動と共に、なんだかやるせない気持ちになり、桐生課長は悪くないのに心の中で悪態をついてしまう。



いっそのこと、抱きついてしまおうか?

恋愛偏差値が中学生で止まっている桐生課長なら、コロっと私に落ちるかもしれない。



そんなことを思ってみたけど
出来るはずがなかった。



それが出来ないのは、
桐生課長が好きだから。



好きな人の好きな人を知っているから。





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