偽る恋のはじめかた
桐生課長は、なにか考えているような顔をして、口を固く閉ざしている。
なんで、喋らないの・・・・・・。
「良かったですねー、ほんと」
「幸せにしてあげてくださいよ?」
「私、2人のキューピッドですね」
この沈黙に耐えられなくて、
喋りたくないのに口が勝手に動く。
必死に笑顔を作って、言わなくていいことまで言ってしまう。
だって、こうでもして喋っていないと、涙が溢れてきてしまうから。
泣かないために必死に口を動かした。
精一杯足掻いてはみたけど、胸が苦しくて耐えられそうにない。
逸らしていた視線を桐生課長に戻すと、目が合った彼の瞳が、揺れているように見えた。
もう、わからない。
なんで、なにも言わないの・・・—。