偽る恋のはじめかた
他の同僚に聞かれないように会議室に移動することになった。
桐生課長の表情からは覇気が全く感じられない。
酷く落ち込んでいるのが、誰の目から見ても明らかだ。
心なしかこの数分でやつれたようにさえ見える。そんな姿を見たら、さすがに私だって心が痛む。
(仕方ないからこの件は他の人には黙っていてあげるか。)
「桐生課長、私誰にも言いませんから。
本当は普段の課長にムカついてて、言いふらしてやろうかとも思ってたんですけど、今の課長の顔を見たらその気持ちがなくなりました」
「ありがとう・・・」
「・・・なんて?」
課長の声が消え入りそうに小さくて、聞き取れなかった。
「この場に及んで何を言ってるんだと思われるかもしれないが、恥を忍んでお願いしたい」
「・・・・・はい?」
「"俺様上司になる"のを手伝ってくれませんか?」
(何を言ってるんだ?この人)