偽る恋のはじめかた
「桐生課長、とりあえず、少し歩いて場所を変えましょう」
「えっ?」
周りの視線が居た堪れなくて、すぐにでもこの場から立ち去りたかった。そんな私の気持ちを汲み取ってくれるはずもない彼は、不思議そうに首を傾げるので、大きな溜息もついてしまう。
「はあ・・・・・・、『えっ』じゃないでしょうが!
桐生課長の発言のせいで、周りから変な目で見られてるんですよ?」
道ゆく人々の視線が痛いくらいに突き刺さる。
なかには、わざわざ足を止めて、私たちの行く末を見守るかのように凝視している人までいる。
それでも動こうとしない桐生課長の腕をグイッと引っ張って、無理矢理足を前に進める。