偽る恋のはじめかた
桐生課長の発言に驚きを隠せないまま、足早に歩いた。しばらく進むと手の温かいぬくもりに、腕を掴んだまま歩いていたことを思い出した。慌てて、パッと勢いよく掴んでいた腕を離す。
「・・・・・・あっ、腕、引っ張って・・・・・・すっ、すみません」
あの場から立ち去りたくて無我夢中で、彼の腕を引っ張り歩いていた。冷静になった途端、恥ずかしさが込み上げてくる。
「ああ、大丈夫だ」
「あの場から、立ち去りたくて、つい・・・・・・」
辺りを見渡すと私たちに注目する視線は消えていた。先程のやりとりを聞いていた人たちからは、離れられたみたいだ。
呼吸を整えて、今だに理解できない難問の解答を求めようと口を開く。
「・・・・・・あの・・・・、延長って?」
「もう少し、延長お願いします」
「・・・・・・えっと、なにを?」
「俺様上司改革を、延長お願いします」
あぁ、延長ってそういう意味か。
彼の言葉の意味をやっと理解できた。
言葉の意味は理解できたけど、延長してほしいという理由は理解できなかった。
両思いって聞いたのに、なんのために延長するんだろう??
桐生課長の考えていることがわからなかった。