偽る恋のはじめかた
「・・・・・・桐生課長なら、私がいなくても、もう大丈夫ですよ?」
彼女が零した言葉は、望んでいたものではなかった。その言葉がやけに心に刺さって痛い。
「え、」
「・・・・・・桐生課長には、私はもう必要ない、ですよ」
「そんなことないっ!・・・必要なんだよ、椎名さんが・・・・・・」
「・・・・・・私が嫌なんです、もう、辛いんですっ・・・・・・」
そう言い残すと、目を合わせることなく軽く会釈をして、足早に俺の前から去っていった。
「・・・・・・椎名さん!」
気づくと去っていく椎名さんの手を衝動的に掴んでいた。そんな行動に出た自分にも驚いたが、この手を離したくない。そう思った。
「・・・・・・俺は、」
「ごめんなさい!わ、私、ごめんなさい」
一度も目を見ることなく俯きながら申し訳なさげに吐き出された言葉が、ぐさりと心に刺さった。
振り払われて行き場の無くした右手が虚しさを余計に感じさせた。
右手から視線を戻すと、彼女はだいぶ遠くの方を歩いていた。
拒否された??
振り払われた右手も、拒否された心も、締め付けられたように痛くて苦しかった。
------ Kiryu side end