偽る恋のはじめかた


「なにが可愛いんすか?」

「・・・・・・べ、別に?なんで、もないよっ?」


隣の席の黒須くんには聞こえていたようで、焦って声も裏返る



「椎名さん、急ぎの仕事あります?昼メシ行きませんか?」


「あー、えっと」




ちょうどお昼に行こうとしていた黒須くんに声をかけられてた。私が躊躇するには理由がある。黒須くんは私に想いを寄せてくれているので、今の状態でランチに行っていいのか迷いがあった。




「あぁ、そういうんじゃないっすよ?普通に同僚として?」



あっけらかんと言いのける黒須くんに嘘はないように見えた。
……気にしすぎも逆に不自然だよね。




「……そっか、じゃあ、行こうか。社内食堂にする?」

「俺行きたい店あるんだけど、そこ行きません?」

「……うん、そのお店に行こうか」


返事をするのに間が出来てしまったのは、ランチを誘ってくれた桐生課長への罪悪感からだった。


・・・・・・もう席にいないんだもん、仕方ないよね。

< 204 / 261 >

この作品をシェア

pagetop