偽る恋のはじめかた
「なにが可愛いんすか?」
「・・・・・・べ、別に?なんで、もないよっ?」
隣の席の黒須くんには聞こえていたようで、焦って声も裏返る
「椎名さん、急ぎの仕事あります?昼メシ行きませんか?」
「あー、えっと」
ちょうどお昼に行こうとしていた黒須くんに声をかけられてた。私が躊躇するには理由がある。黒須くんは私に想いを寄せてくれているので、今の状態でランチに行っていいのか迷いがあった。
「あぁ、そういうんじゃないっすよ?普通に同僚として?」
あっけらかんと言いのける黒須くんに嘘はないように見えた。
……気にしすぎも逆に不自然だよね。
「……そっか、じゃあ、行こうか。社内食堂にする?」
「俺行きたい店あるんだけど、そこ行きません?」
「……うん、そのお店に行こうか」
返事をするのに間が出来てしまったのは、ランチを誘ってくれた桐生課長への罪悪感からだった。
・・・・・・もう席にいないんだもん、仕方ないよね。