偽る恋のはじめかた




黒須くんが連れてきてくれたお店は会社から歩いて数分のところにあるパスタ屋さんだった。ランチ時で女性が多い印象だ。



「ここ、おいしいって聞いてきたかったんすよ。周りが女性ばかりだから、男だけだと気まづくて」

「確かに、女性のお客さんがほとんどだね」

「ここのパスタうまいらしいすよ?」

「……パスタ、おいしそう。だ、ね」


頭の中に浮かんできたのは桐生課長だった。パスタ屋さん予約してくれたなあ、なんて思い出している。


すぐに頭の中は彼で埋め尽くされてしまう現状に、ため息が自然と漏れた。



「あ、また溜息ついた」

「え?」

「気づいてないんすか?今日、ため息つきまくりですよ」


「……そう?そうだった?…全然、気づかなかった」


「軽く仕事の妨害になってるんで、迷惑です」


「……ごめん」


「…そんなマジで謝られると、すげえやりずらいすよ?なに頼むか決まりました?…とりあえず注文しますか」



そう言って店員さんを呼んで、手際よく私の分まで注文を済ませてくれた。

< 205 / 261 >

この作品をシェア

pagetop