偽る恋のはじめかた
「桐生課長と、なにかあったんですか?」
運ばれてきた日替わりパスタを頬張りながら、まじまじと私の顔を見つめている。ワントーン落ち着いた声で、いつものおちゃらけさは感じなかった。
黒須くんの口から『桐生課長』の名前が出ただけで、どくん、と心臓が跳ねる。
「…え、な、なんで?」
「今日、やたらと椎名さんのこと見てましたよね?見てたっていうか、監視に近いくらい」
黒須くんにもばれていた。そりゃあ、ばれるよね。・・・・・・あれだけ凝視されたら。
「桐生課長のこと好きなんすよね?」
「ごっふぉ、…い、いきなり変なこと、言わないでっ」
『好き』という単語に動揺して、ちょうど飲みかけていた水を吹き出しそうになった。