偽る恋のはじめかた
「黒須くんってさ・・・・・・モテるよな」
「まあ、人並みには」
この日も椎名さんと話していたら、桐生課長に無理やり連れ出された。
なぜか男二人で、コーヒー缶を片手にブレイクタイムだ。
好きな女と喋る男を邪魔するとか、中学生かよ。
「……そうか」
桐生課長は、いつもより口数が少なく目を伏せて、なにか考えているような表情を浮かべた。
なにか言いたげな顔をしたって、俺は相談には乗らないからな?
だいぶ年下の部下に、相談するとか、ない、ないだろ!
そう思いながらも、俯く桐生課長の表情に、居たたまれない気持ちが芽生えてくる。
「……いや、俺は相談に乗りませんよ?そんな顔されたって……」
「…ははっ、そうだよな…こんな上司みっともないな」
無理やり笑顔を作った桐生課長の表情に、自分が冷たい人間のような錯覚に陥る。
相談って、絶対椎名さんのことじゃん。
相談に乗る義理なんてないし……。
「……なにか、あったんすか」
気づけば口が勝手に開いていた。絶対話なんて聞くつもりなかったのに。
俺の言葉に、桐生課長はパアッと表情を明るくさせた。
そんな顔されたら、相談に乗るしかなくなるじゃん。ずるいな、天然の人たらしは。