偽る恋のはじめかた





私たちは、桐生課長に誘導されるまま、書類保管倉庫にきた。

ここは他部署の書類が保管されているが、使われていない書類ばかりが保管されているので、人の出入りはほとんどない。


誰もいない空間に、私と桐生課長と梨花の3人。なんとも言えない気まずい空気が流れる。





「・・・・・・すまないね、呼び出して…」



独特の間で話す桐生課長に、私の緊張感も高まっていく。

わざわざ人気のない場所で、私まで呼び出されるってことは……やっぱり、交際宣言だよね。


覚悟していたつもりだったのに、胸がぎゅっと、握り潰されるように痛い。



報告を聞くのが怖かった。事実を目の前で笑顔で受け入れられるか、自信がない。

上手に笑えるかな?笑って「おめでとう」って言えるかな?




「……伝えたいことが、ある、んだ」


彼の言葉が向けられる。


いつになく強張った表情の桐生課長を見て、すべてを悟った。


ああ、やっぱり。二人の交際宣言だ。



「……」



込み上げてくる涙を飲み込んだ。喉が詰まって言葉を発せない代わりに、精一杯の笑顔を浮かべた。


引きつらないように、この感情が表に出ないように、口角を必死に上げた。



ねえ、私、ちゃんと笑えてるかな?
笑顔の仮面を貼り付けて、桐生課長の次の言葉を待った。







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