偽る恋のはじめかた
「ああ、実は・・・・・・雨宮さんのことが一年以上好きでした。この想いを無かったことにするのは、誠意が感じられない気がして・・・・・・雨宮さんにも伝えたかったんだ」
「は?」
「は?」
梨花に片思いをしていたことを伝えるために呼び出したってこと?
・・・・・・わざわざ伝える必要はあるのだろうか。
頭の中でひたすら考えてみたけど、やっぱり桐生課長の行動は理解出来なかった。
「俺は、椎名さんが好きです!」
戸惑う私たちは置いてけぼりで、想いをぶつけてくる。普通なら嬉しいはずなのに、彼の取った行動のせいで素直に受け取ることが出来なくて、感情が拗れて仕方ない。
「・・・・・ぶはっ、ちょ、ちょっと待ってください。私、めっちゃ場違いなんだけど」
困惑する私の隣で、梨花は肩を揺らして笑いを堪えている。
「私を好きだったことをわざわざ伝える必要ないですよ?ってか、伝える方が失礼だし」
「そ、そうなのか?!・・・・・・失礼に値するとは思っていなかったな・・・・・・」
そう言った彼は申し訳なさそうで、その表情から本気で誠意を表すために、梨花も呼び出して伝えたということが感じ取れた。
真面目すぎるせいで、完全に間違いだらけの行動をしている。
「いや、普通に失礼でしょ!なんか、私、勝手に振られた感じになってるし・・・・・・ふふっ、」
言葉に棘があるけど、その口調は柔らかくて、時折含み笑いが聞こえる。
私は戸惑いと呆れが交差して思考が停止していたので、梨花の笑い声が救いだった。