偽る恋のはじめかた
「でも、ちょうど良かった。私も皐月に謝りたかったんだ」
「え、」
梨花は急に真面目な顔を向けて口を開いた。
「居酒屋でさ、桐生課長を狙ってるって話したの覚えてる?」
「…う、うん」
桐生課長が気になることを相談しようとした時に、先に梨花に言われてしまったので、桐生課長を好きという気持ちは蓋をしようと思ったんだ。
「ごめんね、私ずるかった。皐月は桐生課長が好きなのかもって、なんとなく分かってて、それで先手で伝えたの。・・・・・・私、こういうずるいところあるんだ。幻滅した?」
「えっと?」
「皐月が桐生課長好きかもって気づいて、取られないように牽制したってこと!・・・・・・あーあ、私って、本当最低なんだよね」
そうだったんだ。
でも、それは私も同じだった。
牽制のために、梨花に伝えようとしていたのだから。
「梨花は最低じゃないよっ!男関係については・・・・・・悪いところあるけど。私は、女友達の中で一番好き」
「・・・・・・皐月、」
「それに私も同じことしようとしてたんだよ。・・・・自分の気持ちを、きちんと伝えられなかった私が一番悪い。ごめんね、伝える勇気がなかったんだ」
拳をぎゅっと握って、怖くて伝えられなかった思いを精一杯言葉にした。