偽る恋のはじめかた
「皐月は謝らないで。皐月の気持ちを言えなくしたのは、私だから」
「……梨花、」
「これからは、私が皐月の恋を応援する。……ということで!私は消えますね。後は二人で仲良くやってよ」
そう言い残すと、手をひらひらと泳がせて、足早に去っていった。
誰もいない静まり返る空間に、桐生課長と取り残されて、なんだか気まずい空気が流れる。
梨花との会話で、私が桐生課長を好きだったことが、意図せず彼に伝わってしまった。
恥ずかしさで言葉が見つからない私は口を閉ざす。
辺りは静まり返っていて、ふいの無音に緊張で心拍数は早くなるばかりだった。
そんな私を見つめていた桐生課長は、ゆっくりと口を開けた。
「……えと、……ということで、」
「…ふふっ『ということで、』って、この状況でそんな始まり方あります?」
張り詰めた空気感に似合わない桐生節に、思わず笑ってしまった。
そんな私に微笑むと、次の瞬間には真剣な顔つきに変わって、その表情にどくんと心臓が跳ねた。
「……最初は雨宮さんが好きだった。それは偽りなく本当で、でも、いつからか椎名さんを好きになっていたんだ」
「桐生課長は梨花のことを、あんなに好きだったのに……私を好きなんて……」
「自分でも驚くくらい、椎名さんが好きなんだ」
「う、うそ、だ。私は梨花みたいにかわいくないし…」
桐生課長の言葉は泣くほど嬉しいはずなのに、梨花に片思いする桐生課長をずっと身近で見てきた私は戸惑っていた。
梨花を想う彼の姿が頭にこびりついていて、私を好きなんて、どこか信じることが出来なかった。