偽る恋のはじめかた






「椎名さんが一番可愛いよ?誰よりも」

「そ、そんなはずないですよ。……視力ないんじゃないですかっ!」

「……目の前の可愛い椎名さんが見えるから、視力あると思うけど?」


可愛くないことばかり言い放つ私に優しい眼差しを向ける。



「すきだよ」


「……」


「椎名さんの気持ちは?」



ずっと叶うはずのない恋だと思っていた。

心の奥底に隠しても、好きが溢れそうだった。

叶わないと分かっていても、彼が欲しくてたまらなかった。



———私の気持ち?

そんなもの、ずっと好きだったよ。

桐生課長のことが好きで好きでたまらなかったよ。



「……わ、私の方が、ずっと好きでした」


恥ずかしくて目を見れず目を伏せた。


桐生課長に視線を戻そうとした瞬間、ふわっとした香りと共に、大きな腕で抱き締められた。


「嬉しい……」



桐生課長の優しい声と甘い言葉が耳に残る。
彼のぬくもりと、抱き締められる心地よい力に胸は高鳴り続けた。


幸せを感じて、甘い雰囲気に酔いしれそうになっていると、視界に時計が見えて、ふと我に返った。


……今は就業時間中で、ここは書類保管倉庫だ。

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