偽る恋のはじめかた
カーテン越しに差し込むあたたかな日差し。
自然に目覚めた私は気分が良い。
上半身を起こして、のびーっと、背伸びをしながら深く吸い込む空気が綺麗だ。少し前の私の部屋からは考えられない出来事である。
「……おは、よお?」
寝起きで重い瞼の目を開けて、掠れた声をあげたのは桐生課長だ。
ゴミ屋敷状態だった私の部屋は、彼がくるたびに掃除をしてくれるので清潔な部屋へと変貌した。
「んー……、さーちゃん」
寝ぼけたフリをして私の胸に顔を埋める。
近頃、桐生課長は私をさーちゃんと呼ぶ。
最初は恥ずかしくて拒否したけど、それでも呼び続けるのでいつの間にか慣れてしまった。
今では、その呼び方に愛しさと居心地の良さを感じてしまっているので、慣れというものは恐ろしい。
朝から"さーちゃん"呼びをする彼に嫌気なんて全く起きずに、胸の中に埋まった頭をポンっと撫でた。
埋めていたはずの顔を上げると、そのまま体を押し倒して私の上へと跨がる。
どうやら、彼のやる気スイッチを押してしまったらしい。
寝ぼけた顔はどこかへいき、早朝のはずなのに夜の桐生課長の顔をしている。