偽る恋のはじめかた
背中を見送った後、脱がされたパジャマに視線を落として、とりあえず身につけようと手を伸ばす。
そんな私の前に、いないはずの気配を感じて顔をあげると、ちゅっと音を立てて触れるだけのキスをされた。
急いで帰ったはずの桐生課長が柔らかい笑みを浮かべて目の前にいる。
「……元気の源、忘れてた」
「さっき、散々したでしょ。早くしないと早朝会議に遅刻しますよ?」
「行ってきますのキスは違うんだよ」
そう言い残すと、今度こそ玄関に向かった。
「もうっ、」と口では呆れたように言ったけど、心の中は良い意味で荒ぶっている。
もうっ〜、
かわいい、かわいすぎるだろ〜
桐生課長の甘さが嬉しくてたまらない。
彼に見つからないように、愛おしさが尊くて一人で悶えた。
愛おしさが溢れ出る中、靴を履く背中を見つめてると、あることを思い出した。
「あ、桐生課長?……わかってますよね?」
「なーに?」
「会社のみんなには私達のことな内緒ってことです」
「あー、うん、わかってるって。心配しすぎだよ。さーちゃん」
「それそれ!さーちゃん呼び!」
「なにがだめなの?」
「会社では自重してくださいよ?」
「そんなことわかってるよ、大丈夫、大丈夫。じゃあ、行ってきます」
手のひらをひらひらと振って呑気に帰って行った。