偽る恋のはじめかた
「課長、休憩の時間なくなるからそろそろ食べた方がいいですよ?」
私は出された料理の美味しさに舌鼓を打ちながら、箸が止まらなかった。
「そうだな。ご飯は美味しく食べよう。いただきます。」
整った顔と大きくて綺麗な手は、食べているだけで絵になった。箸使いもスマートで綺麗に食べる姿に思わず見惚れてしまった。
「椎名さんは普段は社食?」
ぼーっと、見惚れてしまっていたので、話しかけられてハッと我に返った。
「あっ、はい。そうですね。一人暮らしでお弁当自分で作るのが面倒で、社食が多いです」
「一人暮らしなのか、若いのに偉いな」
「桐生課長はご実家ですか?」
「いや、俺も一人暮らしだよ。一人暮らしも長くなった」
「彼女とかいなかったんですか?」
「彼女は数年いないなあ・・・・・・」
「そうなんですか?モテそうですけど(顔だけなら)」
「簡単にモテたらこんな努力しないよ」
そう言って私に向けられた表情は、柔らかい笑顔だった。課長は自分気付いていないのだろうか。
俺様上司を演じていない方が、気遣いもできて、会話の中に優しさを感じる。こっちの方が普通にモテそうなのにな・・・・・・。