偽る恋のはじめかた


「おお!これは———!」


思いのほか大きな声だったので驚いた。私以上に他の社員が驚いたようで、みんなの視線がこちらに向けられる。


「あっ、いや・・・・・・。
ゴボッ、椎名さん、この資料分からないところあるから、ちょっと一緒に資料室行こうか」



突き刺さる視線から逃げるように、資料室へと移動する。社員の視線が突き刺さり、焦りながら歩く彼の背中が、なんだか可笑しくて、笑ってしまいそうになるのを耐えながら、後ろを着いていく。



「椎名さん、わざわざ作ってくれたの?
いや、凄いよ。全部じっくり読ませてもらう」

パタン、資料室のドアが閉まると同時に、声を高らかに上げて嬉しそうな表情を見せる。渡した書類は、ランチで指摘した俺様上司の間違い30個と、梨花が好きなドラマに出てくる俺様上司の特徴などを、まとめたものだった。


(そこまで喜んでもらえるとは思わなかった。そんなに喜んでもらえるなら、頑張った甲斐があった・・・かな?)


予想以上に喜んでくれたので、ホッとすると共に、私にも嬉しいという感情が沸き起こる。



「簡単に作ろうかと思ったら、やり始めたら止まらなくなって、しっかりした資料が完成しました」

「いやいや、嬉しいなあ。ありがとう」


嬉しさを隠しきれない様子で資料をめくっていく。


簡単に箇条書きにして渡すつもりが、資料を作り始めたら仕事モードに火がついてしまい、しっかりした、"俺様上司改革"の資料が出来上がった。
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