偽る恋のはじめかた




「なるほど、なるほど」「へぇ〜」などぶつぶつ言いながら資料に見入っている。


「最近の桐生課長の態度、良いと思いますよ?
表情が柔らかくなったというか・・・・・・」


「椎名さんに指摘されたから、眉間に皺を寄せたりするのをやめたんだ」

「絶対今の方がいいです。あと、もう少し笑った方がいいですね」

「いや、でも、参考資料(漫画)の俺様上司は、全く笑わない男で、それが良いんじゃないかと思うんだが。やはり、俺様感を出すために怪訝そうな顔はした方がいいのではないかと・・・・・・」

「漫画の俺様上司は、忘れてくださいって言いましたよね?」


言い終わる前に食い気味で言葉を被せた。暴走していた彼は、「はい」と聞き取れるギリギリの声で返事をした。


『間違いだから、忘れてください』と伝えたのに、まだ頭の隅に参考資料(漫画)が残ってたのか・・・。


ヘッポコ上司に向かって『頭の中から、間違いの俺様上司は消せよ』と、無言の圧をかける。
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