偽る恋のはじめかた
私達は、何事もなかったかのようにそれぞれのデスクへと戻る。桐生課長が俺様上司を演じていることは、私以外誰も知らない。
隠れてコソコソと作戦会議しているのがバレないか内心ヒヤヒヤする。その感情とは反対に、優越感のような、自分でも分からない感情も芽生え始めていた。
「椎名さん、今日の飲み会行きます?」
自分の席に戻ると隣のデスクの黒須君に話しかけられた。
「あっ、今日だったね!すっかり忘れてた。
出るって幹事に言ってあるし行くよ。黒須君は?」
「俺も出ますよ〜。椎名さんも出るなら、まあ、楽しむか」
「美味しいご飯とお酒楽しもう」
すっかり忘れていたが、今日は桐生課長の歓迎会だった。お酒は嫌いじゃないので、割と飲み会は好きだった。