偽る恋のはじめかた
「椎名さん起きた?タクシーで眠っちゃったから、おぶって連れてきちゃったよ」
「・・・・・・醜態を晒して、すみません」
上司におんぶされて、なにやってんだろ私。
少し冷静になった頭で猛烈に反省する。
「醜態なんて晒してないよ?
・・・・・・ただ、部屋がちょっと汚いね?」
「・・・・・・おっしゃるとおりです」
訪問者が誰も来ない部屋は、ゴミと脱ぎ捨てられた洋服達で散乱していた。まさか桐生課長が来るとは夢にも思っていなかった。恥ずかしくて顔を埋める。
「どうしようか?ベッドまで運んだ方がいいかな?」
・・・・・・ベッド?!!!
焦りまくりな私は、おんぶされたままなのを忘れていた。まずは、おんぶから降りるべきだった。
「か、か、課長!じ、自分で、行きます」
さすがに、桐生課長とはいえ、男の人にベッドに運んでもらうなんて、それは・・・・・・ダメだ。
「まあ、無理しないで?このまま行くよ?」
「ちょ、えっ?」
おんぶしたまま、寝室へと向かっていく。
何を考えてるんだろう?ただの善意?
それとも・・・・・・——。