偽る恋のはじめかた




ドキドキと心臓がうるさい。自分の部屋に男の人がいることも久しぶり。さらに、おんぶされている状況。これはドキドキせずにはいられない。


「よいしょ」



ベッドの軋む音と共にゆっくり降ろされた。私は降ろされるがまま、無防備だ。そのすぐ横に桐生課長は腰を下ろす。

ドキドキと鼓動が速くなる。隣にいる彼に聞こえてしまうのではないかと思うほど、鼓動がうるさい。


「気分はどう?」

「だ、いじょうぶです」

「・・・・・・あのさ」

「・・・・・・」

「やりたいことあるんだけど・・・・・・いい?」


少し言いづらそうにしつつも、囁かれた声はとびきり甘くて身体の奥底が、きゅっと疼くのが分かった。甘い声と共に感じた吐息にドクン、と胸が高鳴る。


———やりたいこと


ベッドの上で大人の男性が言う『やりたいこと』なんて、1つしかない・・・・・・。


私だって小娘じゃない。お酒が入って、密室に男女二人きり。

今の状況が何を物語っているのかくらい分かる。
返事の代わりにゆっくりと頷いた。


お酒のせいで熱くなった顔の火照りは、身体中に伝染していく。


あぁ、どうしよう。今日の下着は上下セットのやつだっけ? ゴムの伸び切ったデカパンを履いていないことを祈るしかない。


頭の中でぐるぐる考えていると、いつの間にか横にいた桐生課長の姿はいなくなり、奥の方からガサゴソと物音が聞こえて来る。


んっ、なんの音だろう・・・。

音のする方へ向かおうとするも、体が重くて力が入らない。再び酔いが回ってきた頭で、いろいろ考えているうちに、瞼はゆっくりと落ちていった・・・・・・。

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